『自分には競技しかできない』という思い込み

なぜ『自分は競技しかできない』と思ってしまうのか?

アスリートが競技生活を終えてセカンドキャリアに移行する前に、何をして良いのか、何かできるのか分からなくなった時やセカンドキャリアとして新しい活動を始めて慣れないことに戸惑っている時、『自分は競技しかできない』という思いが浮かんでくるという人は少なくないようです。

アスリートの中に『自分は競技しかできない』という思いが生じるのはなぜなのか。
この思い込みについて、これまでアスリートのセカンドキャリアの相談を受けてきた経験と人間の脳力の観点から考えていることをまとめてみました。

勉強が苦手だったという記憶の影響

幼少期から学生時代に掛けて競技に打ち込んで来た人の中には、勉強をする時間を割いて練習に取り組んでいて、学校の成績が良くなったという人もいます。
学生時代にテストで点を取れなかったという体験は、自分は勉強ができないという思い込みを生み、その思い込みが自分が打ち込んでいるスポーツ以外のことはできないという認識につながっているように感じます。

アスリートとして社会に出てからも競技生活を続けていた人は、社会に出て仕事をするというイメージが学生時代の感覚とあまり変わらないため、勉強ができていた人の方が仕事をする上でも有利だという感覚を持っている傾向があります。
でも、実際は勉強ができていたことや勉強のために努力をしてきたことは、仕事をする上でもプラスになることはありますが、勉強ができていないと仕事ができないと言えるほど多くの仕事は単純ではありません。

仕事で活用している認知能力と非認知能力

世の中には、学校の勉強ができていた上で仕事でも成果を出している人もいれば、学校の勉強ではあまりいい点数を取ったことがないけど仕事で成果を出している人がいます。
仕事で成果を出すためには、学校の勉強で良い点を取るために必要な認知能力と人とコミュニケーションを取ったり、目的達成のために計画を立て遂行する力、欲求を制御する力などの非認知能力という2つの能力が必要であるため、学校の勉強では思うような点数を取れていなかった人でも、非認知能力が高いことによって仕事で成果を出すことができるのです。

学校の勉強ができるというのは、簡単に言うと計算力と記憶力の高さと勉強をした経験によって成り立っているのですが、勉強をしていなければ潜在的に計算力と記憶力が高くてもテストでは点を取ることができません。
このタイプの人は、仕事を始めた時に仕事に関することであればしっかりと記憶することができるので、仕事で活かせる認知能力があると言えます。

非認知能力は、学校で授業を受けている時よりもスポーツをしている時の方が養われやすいと言えます。
指導者やチームメイトとのコミュニケーションや目的に向けて努力をする過程が非認知能力を高める機会となるからです。

競技生活で養ってきた能力に目を向ける

スポーツには、非認知能力を高めることができる要素がたくさんあります。
幼少期からスポーツをはじめ、学生時代に真剣に競技に打ち込んだり、社会人になってからもプロや実業団で競技生活を続けてきた人は、確実にいくつかの非認知能力が養われていると思って間違いはありません。

そのため、『自分は競技しかできない』という思い込みは捨て、競技生活で得た非認知能力が何で、それが活かせる仕事は何なのかと考える視点を持って欲しいと思います。
自分にはどんな非認知能力が備わっているのかを考えるために下記の内容を参考にして下さい。

主な非認知能力

  • 自己肯定感や自己効力感などの自己認識
  • 学ぶ気持ちや集中力などの意欲
  • 粘り強く頑張る力である忍耐力
  • 自制心や理性などのセルフコントロール力
  • 客観的指向、判断力や行動力などのメタ認知
  • リーダーシップや協調性、共感力などの社会的能力
  • 楽観性や応用力、分析力などの対応力
  • 創造性、工夫する力などのクリエイティビティ

競技生活を振り返ってみると、この能力を養うことができていたと思えたり、この能力に長けていると感じる体験をしたことがあるのではないでしょうか。
誰にでも必ず何らかの非認知能力があり、それを活かせる仕事もあります。
アスリートがセカンドキャリアについて考える時、非認知能力とそれを活かせる仕事という視点からキャリアを考えて欲しいと思います。

学校のテストで点が取れたかどうかということだけで自分の能力やできる仕事が判断できるわけではないということを分かって頂けたのではないでしょうか。
仕事をする上では、計算力や記憶力などの認知能力も必要ですが、実際に仕事をする上では非認知能力が必要な場面の方が多いので、競技生活で養われた自分の能力に自信を持ってセカンドキャリアを選択して下さい。

アスリートが直面するセカンドキャリアのハードル

 

この記事を書いた人

衣川竜也

衣川竜也

株式会社AXIA 代表取締役
メンタルトレーナー、心理カウンセラーとして大阪を拠点に活動しています。
このサイトでは、主にアスリートのキャリア構築に関する心理的要素について
記事を書いています。

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