私は、アスリートが社会から信頼を得ることができる要素に自己管理能力があると思っています。
アスリートとしてスポンサーを獲得するにも、競技生活を送りながら他の仕事をするにしても、引退後にセカンドキャリアを歩むにしても、一人の人間として信頼を得ることは欠かせませんが、自己管理能力が高いということは信頼を得ることができる可能性が高まります。
アスリートなら、自分の競技生活を振り返りどのような自己管理能力が身についているのかを自覚して、言語化できるようになっていて欲しいと思います。
私は大学の時に実業団チームを持つ企業に就職する際に十分な戦績が無かった分、学生時代の勉強と協議への取り組みを伝えたことで自己管理能力を評価して頂き就職できたと感じています。
また、私は就職活動に関する相談では、クライエントの話を聴いてその人の自己管理能力をどの様に言語化すれば良いかをアドバイスしているのですが、クライエントの就職活動の結果を見ているとそれが成果につながっているという実感があります。
では、なぜアスリートは自己管理能力が高くなるのか、そしてそれが人間として信頼される要素になるのかについて説明していきます。
目的達成のための自己管理
競技生活を送るということは、その年のリーグ戦制覇、毎年行われる大きな大会、数年に1回行われる世界規模の大会への出場やメダル獲得などを目的として掲げて取り組むことになりますが、その目的達成は長期的な取り組みとなります。
1日1日を、目的達成のために何をすべきか、何をしないべきかを考えて心技体を磨き、挑戦することが求められます。
しかし、人間はさまざまな欲求を持っているので目的達成のためにすべきことが中断されてしまうことがあります。
自己管理とは、すべきことが中断されないように、自分の欲求と上手く付き合って目的達成のために必要な習慣を確立していくことです。
自己管理のカギは欲求のコントロール
設定する目的によっては、トレーニングに割くべき時間が増えたり、食事、睡眠などの管理も明確に行う必要が出てくるため、生活の中のさまざまな欲求にも打ち勝たなければなりません。
それは、習慣の確立が容易ではないということでもあります。
競技生活の中で高い目的を設定することは、より高度な欲求のコントロールが必要になるということであり、その中で真摯に目的達成に取り組むということは、人格的な成長を促進することにもなります。
競技生活は、目的達成のために自分を律して取り組まなければならない生活であることを誰もが容易に想像できるからこそ、結果を残してきたアスリートは人格的にも優れた人だろうというイメージを持たれやすいのかもしれません。
しかし、環境だけが人格の成長を促進するのではなく、自己管理によって目的の達成につながる習慣を確立するからこそ人格的成長が進むのであり、自己管理ができるアスリートは人格的に優れた点も多いと言えるのではないかと思います。
なぜ自己管理は難しいのか
欲求のコントロールは自己管理を行う上で必要ですが、そもそも欲求をコントロールすることは簡単ではありません。
そのため、アスリートにとって目的を達成するために自己管理を続けることは難しいことであると言えます。
競技生活は、目的達成のために努力を習慣化していく必要があり、世界大会や全国大会はもちろん、それよりも小規模な大会であっても結果を残すためにはそれなりの努力の習慣化が必要になります。
そういう点で競技生活は、努力ができる習慣を身に着けることができる環境であるとは言えますが、人間は、食欲や性欲、睡眠欲などの一次的欲求や楽しみを求めたり、自由でありたいなどの二次的欲求を持っていて、それらの欲求が行動として現れることで努力の継続を断ってしまうことがあります。
例えば、繊細な体重のコントロールが求められる競技で、食事の管理を怠り過度に食事を取ってしまったり、異性と会う時間を持つことが練習時間や睡眠時間を減らしてしまうことがあります。
他には、普段からさまざまなことを我慢して競技に取り組んでいる反動で、息抜きと思って行った遊びにはまってしまい依存的になるということも努力の継続に支障をきたしてしまいます。
競技生活のストレスが欲求のコントロールを難しくする
人間の欲は、生きるために必要だからこそ備わっているのですが、他の動物に比べて人間は欲求に対するリミッターが壊れていると言われています。
必要以上の量や質の食べ物を求めたり、子孫を残すという目的以外で性交渉を求めるのも人間だけです。
また、二次的欲求という自尊心を補ったり、娯楽を求める欲求にも限りがありません。
欲求を満たすことは生きるための手段ですが、人間に生命の危機を感じさせるのがストレスです。
我慢や葛藤が伴う競技生活だからこそ、抱えるストレスも大きく慢性的になりやすいため、欲求を満たしてストレスを和らげたいと思うことも自然なことなのです。
競技生活は、目的達成のための質の高い習慣を確立する必要がある半面、競技生活だからこそ感じるストレスもあり、強い欲求が生じる環境でもあることが自己管理が難しい理由なのです。
アスリートの自己管理能力はビジネスにも活かされる
スポーツをしていない人でも、何となく競技生活は精神的にも大変だと感じているからこそ、努力を継続して目的を達成するアスリートの姿に感動するし、尊敬の念も生まれるのだと思います。
そして、目的が達成できるということは、人格的にも成熟しているという期待も生まれ、無意識にアスリートには人格的に優れていることを求めるのだと思います。
しかし、実際は目的達成のために取り組む中で生まれるストレスを和らげるために健康を害したり、法律を犯す形の欲求充足の手段をとってしまう人がいたり、引退後に偏った欲求充足の方法にはまり依存症となっていく人もいるのが現実です。
そういった事例からは、アスリートとして競技生活を送ることが自動的に人格の成長を促してくれる側面があると同時に、競技生活の中で生じるストレスによって成長のための習慣を維持することを妨げられることがあるということをアスリートは意識おくことが大切だと思います。
自己管理は難しいものですが、競技生活の中で目的達成のための我慢とストレスの発散の適度なバランスの取り方を学ぶことは、競技生活だけでなく、ビジネスにも活かされます。
例えば、企業がアスリートのスポンサーになるのもビジネスです。
またアスリートによっては、企業から特定の仕事を引き受けつつ現役生活を送っている人もいます。
セカンドキャリアにおいては、自営をするにしても企業に就職するにしてもビジネスを行っていくことになります。
仕事でも競技生活と同じように自分の欲求をコントロールして、目的に対して適切な努力を継続していくことが求められるので、競技生活でそれを実践しているアスリートはビジネスでもその能力を発揮できるのではないかと期待ができます。
アスリートの競技生活は、競技レベルが高いほど期待や注目度も高まるため、ストレスへの対処、欲求のコントロールをしつつ、目的を達成するための習慣を確立していかなければなりませんが、それによって得られる自己管理能力は社会から信頼を得ることができる大きな力だと認識しておいていいと思います。
この記事を書いた人
衣川竜也
アスリートのキャリア構築を支援するオンラインサロン