スポーツは自尊心を育てる体験ができる機会

スポーツは、試合に出る以上は勝敗を争ったり、記録に挑戦することになり、そこには結果というものが付きまといます。
満足のいく結果が得られることもあれば、そうでない場合もあるでしょう。
勝敗という観点でいうと優勝者、優勝チーム以外は敗戦を体験することになり、記録という観点でいうと常に記録更新ができるわけではないので過去の自分を超えられないという体験をすることになります。
スポーツはこのような体験をするからこそ成長する心理的要素があります。
それは、自尊心です。

自分と向き合い結果を受け入れていくことによる心理的効果

私たち人間は、だれしも万能感というものを持っています。
万能感とは、『自分は何でもできる』という感覚を疑うことなく信じている心の力です。
これは、自分の力では生きていくことができない状態で生まれた赤ちゃんが、親との関係の中で獲得していくものであり、幼児期には必要な心理的要素です。
幼児期に万能感をしっかりと獲得していることは、心の成長の土台となるのです。
ただ、この土台は子供が成長する過程で何度も砕かれ、叩き直されていくことで大人として社会の中で生きていくために必要な自尊心となっていきます。

幼児的万能感を持ったまま大人になると・・・

幼少期に獲得したままの万能感は幼児的万能感と言い、『自分は何でもできる』と本気で思っている感覚なのですが、成長する過程で幼児的万能感を持ったままだとさまざまな問題が生じてしまいます。

  • 自分の限界を認めたくないため困難から逃げようとする
  • 自分の能力を過大評価しているが努力は伴わない
  • 他人より自分は優れていると思い他人を認めるない
  • 自己中心的な考え方になる


幼児期に万能感を持っていることは、心の成長過程として問題はないのですが、子供なりに課題に向き合い、困難に遭遇することによって自分の力の限界を感じ、足りない部分を努力で補って課題をクリアする、困難を乗り越えるという体験をする機会を得ることができなければ、幼児的万能感を持ったまま大人になってしまいます。
幼児的万能感を持ったまま成長すると、自分の力の無さを実感して幼児的万能感を壊したくないため、課題や困難を回避して成功体験を得られないようになってしまいます。
しかし、自分を過大評価しているために口だけで行動が伴わない人になってしまいます。
そして周囲の人とも安定した人間関係を築くことが難しくなり、社会で生きていくことが困難になってしまうのです。

スポーツは幼児的万能感を自尊心に変える機会となる

幼児的万能感は、自分の力ではかなわないという体験をすることで打ち砕かれます。
本来は、子育ての中で親との何気ない遊びを通じて幼児的万能感が打ち砕かれ、その後に万能感を築き直して社会で生きていくための心の力を手に入れていくことになります。
例えば、親とかけっこをして負けたことにより幼児的万能感が打ち砕かれ、悔しいから自分なりに練習を重ねて数年後にかけっこで勝負をした時に勝ったということが、『自分の力が及ばないことがあっても努力をすることで乗り越えられる』という体験となり、社会生活に適応するための柔軟な万能感を得ることができるのです。

スポーツで勝つため、記録を更新するために努力をするということは、何度も敗戦を味わいながら努力によって自分が望んでいる結果を出したり、自分の力の向上を感じることができる体験となります。
アスリートは、そのような体験を競技生活の中で何度も繰り返すため、幼児的万能感が砕かれ努力によって万能感を構築し直して心が鍛えられていくのです。

幼児的万能感から自尊心へ

スポーツは、勝負や記録に何度も挑戦して自分は努力によって何かを達成できるという感覚を手に入れると同時に、努力をしても叶わない相手がいたり、達成したい目標に挑戦できる期限があったり、ケガや筋力の衰えなどによって志半ばで引退を考えなければならないタイミングが生じます。
スポーツは、自分の能力や現実を受け入れていく必要性に直面する機会も多くなるのです。

例えば、甲子園を目指した高校球児なら、3年間という期限の中で目標達成を目指すわけです。
甲子園を目指して努力をすることで野球の技術や精神的な勝負強さなども向上して自信がつく半面、頑張ったけど予選で負けてしまって甲子園出場は叶わなかったということもあります。
敗戦の体験は、目標が達成できなかった自分と向き合って悔しさ、不甲斐なさ、未熟さを受け入れていくための機会となり、それらを受け入れることができた心理状態と自分は努力によって自分を向上させることができるという感覚が合わさって自尊心が築かれるのです。

幼児的万能感は一種の思い込みでもあり、思い込みがあるからこそ高い目標に挑戦することができたりもするので、幼いころほど幼児的万能感は必要な感覚であると言えます。
大切なことは、この幼児的万能感を持った状態で何かに挑戦して自分の現実に直面し、努力によって課題をクリアしていくという体験をすることです。
その体験が、幼児的万能感を自尊心に変えてくれるのです。

大切なのは敗戦の受け止め方

スポーツは、幼児的万能感を自尊心に変えていく機会を得ることができると説明しましたが、ここで大切になるのは敗戦をどのように受け止めるかということです。
試合で相手に負ける場合も狙っていた記録を更新できない場合も、その事実と向き合って心の整理をつけていく過程が重要なのです。
人によっては、自分を責めて自分自身を否定し続けてモチベーションを低下させてしまう人もいますが、そうならないためには敗戦について振り返る時に以下のような点に焦点を当てることが必要です。

  • 試合結果につながった要素を分析する
  • 自分の努力の内容と量が適切だったか検討する
  • 今後どのように取り組むかを検討する
  • 決めたことを実行する

簡単に分類すると敗戦後にすべき反省は、上記の4つのポイントを抑えることが望ましいと思います。
一つ一つ掘り下げるともっと細かい説明になってしまいますが、今回はざっくりと分類しました。
敗戦した時、自己否定をして落ち込むことは敗戦を受け止めるということではありません。
ショックが大きいほど、そのような段階も避けることは難しいのですが、最終的には現実的なことに目を向けて試合結果につながった要素から課題を明確にして、その課題を克服するために行動することが必要になります。

このような取り組みを行うことが、『自分は努力によって課題を乗り越えることができる』『努力によって自分を向上させることができる』というような感覚を手に入れることにつながるのです。
敗戦は、感情的にはネガティブな状態になる事実ですが、感情に振り回されることなく事実を受け止めて再挑戦につなげることによって、競技以外にも応用可能な力を向上させた体験として自分の中に残すことができると思います。

スポーツで得た自尊心を何に活かすのか

アスリートは、いつかは引退する時が来ます。
その時に、『競技以外は何もできない』という風に思ってしまう人もいるのですが、それは競技によって得た能力にのみ焦点を当てて自己評価をしているからです。
スポーツによって身についた力は、競技力だけでなく、その競技力を高めた精神力である自尊心です。

引退後は、競技に携わる人の中には指導者になる人もいるば、指導以外の形で選手をサポートしたり、競技を盛り上げる仕事につく人もいます。
また、競技とは全く関係のない新しい仕事に挑戦する人もたくさんいます。
私は、そのすべての人に競技生活で培った自尊心を活かして新しい挑戦をして頂きたいと思っています。

新しい挑戦をすると、競技生活で体験したように何らかの課題に直面して自分の能力のなさを思い知らされることもあるでしょう。
しかし、そんな時は努力よって課題を乗り越えてきた体験があることを思い出して欲しいのです。
どんな道に進もうとも、常に新しいことを学び、小さな挑戦を繰り返して自分を向上させていく人は、大きな課題にも挑戦することができます。
競技生活の中で構築した自尊心は、自分自身を向上させるための努力と挑戦を可能にする精神力です。
アスリートには、その力を信じて競技以外でも充実した人生を歩んで欲しいと思っています。

この記事を書いた人

衣川竜也

衣川竜也

株式会社AXIA 代表取締役
メンタルトレーナー、心理カウンセラーとして大阪を拠点に活動しています。
このサイトでは、主にアスリートのキャリア構築に関する心理的要素について
記事を書いています。

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